窓ガラスは、私たちが快適に過ごすための重要な要素です。
なぜなら建物の冷暖房の効率は窓によって大きく変化するためです。
実際、2013年の研究では、アメリカの年間一次エネルギー使用量の4%は、「窓ガラスの冷暖房効率で消費されている」と言われています。
そこでシンガポール・南洋理工大学(Nanyang Technological University)材料工学部に所属するイー・ロン氏ら研究チームは、気候に適応して温度調節する省エネガラスを開発しました。
研究の詳細は、12月16日付の科学誌『Science』に掲載されています。
目次
- 「暑いときは涼しく」「寒いときは暖かく」してくれる自動調節ガラス
- 従来の省エネガラスよりも9.5%エネルギー削減できる!カスタマイズも可能
「暑いときは涼しく」「寒いときは暖かく」してくれる自動調節ガラス
これまでにもいくつかの「省エネガラス」が開発されてきました。
熱移動を防ぐ素材を使用(暖房効果)したり、太陽光の侵入を抑制(冷房効果)したりして、部屋の温度を調整してきたのです。
ところが、これらのガラスは暖房効果と冷房効果の両方に適応できるものではありませんでした。
そのため「冬は暖かいけど夏は暑い」もしくは「夏は涼しいけど冬は寒い」という悩みを抱えていたのです。
そこでチームは、両方の機能を備えた適応型ガラスを開発することにしました。
今回新しく開発されたガラスは、温度によって特性が変化する「二酸化バナジウム」や、アクリルガラスになる「ポリメタクリル酸メチル」、さらに熱移動を抑制する「低放射率コーティング」などを組み合わせて作られています。
これにより、温度に応じて「侵入してくる太陽光の量」と「宇宙に向かって自然に放出される熱の量」を同時にコントロールできるようになりました。
夏と冬では調整の仕方を変え、部屋の中をいつでも快適にしてくれるのです。
では、この新しい省エネガラスにはどれほどの効果があるのでしょうか?
従来の省エネガラスよりも9.5%エネルギー削減できる!カスタマイズも可能
新しい省エネガラスの効果はシミュレーションではっきりと確認されました。
チームは、地球上の7つの気候帯データを用いたシミュレーションを実施。
その結果、省エネガラスは温暖期と冷涼期の両方で省エネ効果を発揮しました。
また中規模オフィスビルにおけるシミュレーションでは、市販の低放射率ガラスに比べて、最大9.5%のエネルギーを削減できると判明。
これは年間で計算すると33万kWhになり、シンガポールの60世帯の1年間の電気量に相当します。
そしてチームは、「季節的な温度変化に関係なくエネルギーを削減できるため、あらゆる気候に適用可能」だと述べました。
さらに省エネガラスのコーティング構造や組成を調整するなら、地域のニーズに合わせて性能をカスタマイズできます。
まさに「どんな気候にも適応する省エネガラス」なのです。
現在、新しい省エネガラスは特許申請中とのこと。
今後チームは、ガラスの省エネ性能をより向上させていく予定です。
参考文献
NTU Singapore scientists invent energy-saving glass that ‘self-adapts’ to heating and cooling demand
https://www.eurekalert.org/news-releases/938287
元論文
Scalable thermochromic smart windows with passive radiative cooling regulation
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abg0291