ボトックス注射が、うつや不安に効くようです。
米国カリフォルニア大学で行われた研究によれば、美容や医療目的のボトックス注射を行った4万人の経過データを分析したところ、額や首など特定の部位に注射された人々において、不安症に陥るリスクが最大で72%も減少していた、とのこと。
また、うつ病になるリスクも大幅に減少していることも確認できました。
ボトックス注射の主成分であるボツリヌス菌の出す「毒素」が脳や神経系に作用して、ネガティブな感情の発生源となる神経活動を抑え込んでいるからだと考えられます。
研究結果の詳細は12月21日に『Scientific Reports』にて公開されています。
目次
- ボトックス注射でうつ病や不安症のリスクを減らすと判明!
- ボツリヌス毒素がネガティブな感情を麻痺させる
ボトックス注射でうつ病や不安症のリスクを減らすと判明!
ボトックス注射というと多くの人は「シワとり」などの美容目的での顔への注射を想像すると思います。
ボトックス注射にはボツリヌス毒素と呼ばれる、ボツリヌス菌の出す「筋肉を弛緩させる毒素」が含まれており、眉間など筋肉によってシワがうまれやすい部位に注射すると、筋肉の動きが鈍り、結果的にシワができにくくなるのです。
ですがボトックス注射が使われているのは、美容の世界だけではありません。
筋肉の緊張をともなう片頭痛や手足の痙攣、筋肉のアンバランスによる首の痛みなど、ボトックス注射は筋肉のトラブルにかかわるさまざまな症状にも活用されています。
一方で、ボトックス注射も多くの医薬品と同様に副作用が存在します。
アメリカ食品医薬品局(FDA)では、臨床試験では発見できなかった副作用をまとめたデータベースが存在しており、ボトックス注射を受けた4万人の患者の経過データも記録されていました。
通常、このデータベースは予期せぬ副作用の原因を確かめるために使われています。
ですが、全ての副作用が人間の健康や幸福を損ねるものとは限りません。
中には、思いもよらない健康効果や幸福につながる副作用が潜んでいる可能性もあるのです。
そこで今回、カリフォルニア大学の研究者たちはFDAのデータベースを分析し「良い」副作用が現れているケースを探しました。
結果、ボトックス注射を眉間・頭部・首・手足に受けた人々において、不安症になるリスクが22%~72%低下していることを発見します。
また不安との強い関連がある、うつ病の有病率を調べたところ、ボトックス注射を眉間・頭部・首・手足に受けた人々では、うつ病になる確率が大幅に下がっていることが確認されました。
この結果は、特定部位へのボトックス注射が、うつ病や不安になるリスクを下げていることを示します。
ボツリヌス毒素がネガティブな感情を麻痺させる
今回の研究により、眉間・頭部・首・手足など特定部位へのボトックス注射が、うつ病や不安症になるリスクを下げている可能性が示されました。
研究者たちは、ボトックス注射の主成分であるボツリヌス毒素には脳内のネガティブな感情にかかわる回路を麻痺させる機能があると推測しています。
不安はうつ病の大きな原因の1つであるため、不安に対して鈍感になっていれば、結果としてうつ病にもかかりにくくなると考えられるからです。
研究者たちは今後、ボトックス注射が脳神経に影響を与えるメカニズムを解明していくとのこと。
もしボトックス注射が、うつ病や不安症に対する効果が認められれば、シワとりついでにうつや不安も抑えることができるかもしれません。
参考文献
Beneficial Side Effect: Botox Injections May Reduce Anxiety
元論文
Postmarketing safety surveillance data reveals protective effects of botulinum toxin injections against incident anxiety
https://www.nature.com/articles/s41598-021-03713-x