<この1年、衝突を繰り返してきた極左集団と連邦議会議事堂襲撃に関与した極右組織> オレゴン州ポートランドで8月22日、別々にデモを行っていた極左集団のアンティファと極右組織のプラウド・ボーイズが衝突し、暴力事件に発展した。 ANTIFA and Right Wing Groups have begun to class in Portland Explosive devices are being set off right next to a gas station. pic.twitter.com/wD9RKWqSUh— Tayler Hansen (@TaylerUSA) August 22, 2021 アンティファは反ファシスト(アンチ・ファシスト)の略語で、抗議デモなどのイベントでネオナチや白人至上主義者に抵抗する極左集団の通称だ。リーダーは存在しない。この数年、オレゴン、ワシントンやニューヨークの各州で、アンティファとプラウド・ボーイズの衝突が暴力に発展する事例が相次いでいる。 中でもポートランドはこの1年、衝突の中心地となってきた。2020年5月25日にミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドが白人警察官に殺害された事件を受けて、全米で抗議デモが行われたが、ポートランドではその抗議デモの中でアンティファとプラウド・ボーイズが激しく衝突。22日のデモは、その衝突から1年を迎えるのに合わせて行われていた。 アンティファとプラウド・ボーイズの歴史を振り返る。 アンティファとは何者か 「アンティファ」とは「反ファシスト(アンチ・ファシスト)」の短縮形で、ファシスト、あるいは白人至上主義者に反対する活動を行う集団だ。リーダー不在の緩いつながりで、共産主義や無政府主義、社会主義などさまざまな左派の大義を根拠とした活動を展開している。 米議会調査局(CRS)は2018年、アンティファについて「必ずしも左派の主張のみを掲げている訳ではなく、環境保護主義、先住民の権利や同性愛者の権利などの支持者である場合もある」と報告している。 また有力シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が2021年6月に発表した論文によれば、アンティファのルーツは、第一次世界大戦の直後にファシスト集団に反対したドイツとイタリアの左派集団に遡ることができる。 CRSは2018年の報告書の中で、1980年代後半にアンティファのイデオロギーを取り入れたARA(反人種差別運動)をはじめとする米国内の複数の反人種差別集団が「国際的な運動の積極的な、そして時には(暴力も含めて)犯罪となる戦術を支持した」と指摘する。「アンティファ運動の一部のメンバーは、自分たちの信念を普及させるために罪を犯すことも厭わない」とつけ加えた。 CSISは2021年6月の論文の中で、アンティファ運動の多くの支持者は暴力について、ファシズムに反対するための唯一または主要な手段としては支持していないものの、「正当な選択肢ではあると考えている」と指摘している。 ===== 米国内におけるアンティファ運動は、2017年8月12日にバージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者と反差別主義者が衝突がして以降、ますます活発化した。2020年5月31日に、ドナルド・トランプ前米大統領が「アメリカ合衆国はアンティファをテロ組織に指定する」とツイートしたことがきっかけで、全国的な注目度が高まった。 当時のウィリアム・バー米司法長官は、次のような声明を発表した。「正当な抗議活動が、暴力的で過激な者たちによってハイジャックされている。アンティファやそれに類似するグループが煽り、実行している暴力は国内におけるテロ行為であり、それ相応の扱いを受けることになるだろう」 FBIのクリストファー・レイ長官は2020年9月、アンティファの活動家たちは深刻な懸念材料ではあるものの、アンティファは「集団でも組織でもなく、運動あるいはイデオロギーだ」と言明したとAP通信は報じている。 プラウド・ボーイズとは何者か 米司法省は2021年1月に発表した報告書で、プラウド・ボーイズとは「ナショナリスト(国家主義者)の組織」だと指摘。彼らは「西側の熱狂的愛国主義者」を自認していると説明した。 同報告書は、1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件に関連して、プラウド・ボーイズのメンバー2人を共謀罪などで起訴することを明記。メンバーは黒と黄色の服や、プラウド・ボーイズに関連のあるロゴやエンブレムのついた服を身に着けていることが多いと説明した。議会議事堂の襲撃事件では1月以降、ほかにもプラウド・ボーイズとつながりのある複数の人物が起訴されている。 プラウド・ボーイズは2016年に、ネットメディア「バイス・メディア」の共同創業者であるカナダ系イギリス人のギャビン・マッキネスが設立した。バイスによれば、マッキネスは2008年に退社し、その後は同社との関わりはないという。またBBCの2020年9月の報道によれば、マッキネスは2018年に自身の弁護団の助言を受けて、プラウド・ボーイズのリーダーの役割から退いた。 BBCによれば、同組織の名前はディズニーのミュージカル『アラジン』の楽曲に由来する。また人権団体の南部貧困法律センター(SPLC)は、プラウド・ボーイズのメンバーは「定期的に国家主義的なミームを拡散させて、過激主義者との結びつきを維持している」と指摘。プラウド・ボーイズは「反イスラム主義で女性蔑視の論調」で知られており、「過激主義者たちの集まりに、ほかのヘイト集団と共に参加」してきたとも主張している。 ===== フェイスブックやインスタグラム、ツイッターやYouTubeをはじめとする複数の主要ソーシャルメディアは、プラウド・ボーイズのアカウントを停止している。 カナダ政府は2021年2月、プラウド・ボーイズをテロ組織に指定。同組織が2021年1月の米連邦議会議事堂襲撃事件で果たした役割を、その理由に挙げた。AP通信の当時の報道によれば、カナダの複数の当局は1月の襲撃事件の前からプラウド・ボーイズについて監視と証拠集めを行っており、事件発生によって得たさらなる情報を受けて、彼らをテロ組織に指定する決断に至ったということだ。カナダのビル・ブレア公安相は当時、「彼らが暴力に向かっていることがはっきりした」と述べていた。 プラウド・ボーイズのリーダーであるエンリケ・タリオは2021年2月、AP通信に対して、テロ組織の指定は「ばかげている」と述べ、次のように主張した。「何の根拠もない決定だし、言論の自由の権利侵害だ。カナダのプラウド・ボーイズたちがこれまでにしてきたことといえば、集会に行くことだけだ。政府は米連邦議会議事堂で起きたことを利用した」 ===== ■アンティファとプラウド・ボーイズの衝突(8月22日) ANTIFA and Right Wing Groups have begun to class in Portland Explosive devices are being set off right next to a gas station. pic.twitter.com/wD9RKWqSUh— Tayler Hansen (@TaylerUSA) August 22, 2021 Major clash between Proud Boys and Antifa happening now on 122nd in Portland Pepper spray and airsoft deployed, fighting ongoing in the streets pic.twitter.com/z7V584qMuQ— Zane Sparling (@PDXzane) August 22, 2021