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<米軍撤退に乗じて全土を掌握したタリバンだが、柔軟姿勢の指導部と凶暴な戦闘員はどっちが本物?> 略奪や処刑を伝える話が国中から聞こえてくる。首都カブール在住の市民は海外にいる友人知人に電子メールを送り、タリバンの戦闘員が住宅に押し入って女性のジャーナリストや医師を連行する様子を伝えている。 だが電光石火でアフガニスタン全土を制圧して以来、タリバン指導部はまさに真逆のメッセージを世界に発信している。現場の戦闘員には乱暴を慎めと命じ、国民に向けては自分たちの「善意」を信じろと呼び掛けている。 前政権で働いていた人全員に恩赦を与えるとも言った。女性を含めて公務員やジャーナリストには職場復帰を促した。少数民族(や異教徒)にも手を差し伸べ、彼らの不安を和らげようとしている。 タリバン幹部の多くは外国生活が長く、自分たちは昔と違う穏健派だというイメージを打ち出し、正当な指導者として国民からも国際社会からも認められることを強く望んでいる。 しかし現場の戦闘員が同じ思いだという保証はない。組織内に生じた亀裂がどう修復されるのか、そして最終的に勝つのはどちらか。今はまだ分からない。 カブールを制圧した翌日、タリバンの広報官ザビフラ・ムジャヒドは市内で長時間の会見を行い、タリバンは報復を求めておらず、過去に敵対した者を処刑することもないと言明した。女性の権利もイスラム法(シャリーア)の枠内で守り、融和的な政府を樹立し、外国大使館は24時間体制で保護するとも約束した。 戦闘員は「選挙など許さない」 だが国民の多くやタリバンをよく知る専門家は、口先だけのポーズと見なしている。現にムジャヒドはメディアにイスラム法の遵守を求めているし、女性の職種を限定するような発言もした。 そもそも政治指導部が、現場の戦闘員に望まれぬ譲歩をするとは考えにくい。既に戦闘員がデモ参加者に発砲したとか、街頭に貼り出された女性の広告を塗りつぶしているなどの報告がある。 南部の主要都市カンダハルにいるタリバン戦闘員の一人は匿名を条件に筆者の取材に応じ、タリバンは選挙などは許さないと言った。 「選挙は無駄だ。この20年に何度も選挙があったが、何もできていない。われらはわが道を行くのみだ」 ただしカタールの首都ドーハにいるタリバンの公式報道官スハイル・シャヒーンの見解は異なる。選挙の実施を含め、「協議の場に持ち出されるどんな提案も排除しない」と主張している。 ===== かつてCIAで南・南西アジア地域担当のテロ対策班を率いていたダグラス・ロンドンに言わせると、今のタリバンは「実にメディア対応がうまい」。だから昔のように、見せしめで少数民族を虐殺したりすることはないかもしれない。しかし、だからといって基本的人権の無視やテロ集団への支援をやめるとも思えないという。 「彼らは宗教的な正統性を身にまとって、以前と同じように女性を虐げ、欧米文化の流入を阻み、民主主義を抑圧し人権を無視するだろう」とロンドンは言う。「テロ集団を抑えることもせず、ただ派手な活動は控えてくれと言うのが関の山だろう」 ちなみに、インドなどで活動していて身柄を拘束され、アフガニスタン当局によってバグラム空軍基地内の収容所に入れられていたアルカイダの戦闘員を、タリバンは既に何人も解放している。 組織の上層部から現場レベルまで、タリバン内部のさまざまな人物と重ねてきた取材を総合すると、彼らが再び強権的な支配体制の構築を目指しているのは間違いない。ただし、以前ほど極端かつ残虐ではない可能性がある。 今度のタリバンが目指すのは、現にイランやサウジアラビアのようなイスラム国家で行われている統治形態のもっと厳格なバージョンだろうという見方もある。そうであれば、タリバンが初めてアフガニスタンの支配権を握った20年前よりは穏健な体制になるだろう。 イランの例に倣うなら、今後のアフガニスタンは露骨な宗教国家ではあるが、指示系統の明確な聖職者集団が動かす体制となり、原理主義者の暴走は防げるかもしれない。 都市部の生活は西洋化している 「聖職者の仕切るイスラム国家。それこそがイランの期待するところだ」。アフガニスタンの元国家保安局長官で、2019年の大統領選に出馬したラハマトゥラ・ナビルは筆者にそう言った。首都陥落の直前のことだ。 いまカタールの首都ドーハやパキスタン西部のクエッタ、あるいはアフガニスタンの首都カブールにいるタリバン幹部は、まず都市部の住民にどこまで自由を与えるかを議論している。この20年で都市部の人口は増え、それなりに西洋化している。 彼らを懐柔して外国からの批判を封じつつ、地方部に多い宗教的保守派の支持もつなぎ留める。それが彼らの狙いだ。 筆者はタリバン幹部サイード・アクバル・アガの息子ハビブ・アガに話を聞いた。彼は首都に進攻した実戦部隊とも、海外にいる指導部とも通じているという。 ===== ハビブは筆者にウルドゥー語で言った。「女子が学校に行くのは許される。望むなら大学まで行ってもいい。医者にもなれる。女性には女性の医者が必要だからね。でもジャーナリストや弁護士は難しいんじゃないか」 頭と首を覆うヒジャブを着て、ちゃんと髪の毛を隠していれば、全身を覆うブルカの着用までは強制されないだろう、とも語った。 勧善懲悪省が復活する ただし「子供の勉強を妨げ、大人の時間を無駄にする」ようなテレビの娯楽番組は禁じられ、許されるのは「良い音楽」くらいだろう。いずれにせよ、20年前にあったイスラム法を遵守させる「勧善懲悪省」が復活し、その厳格な監視下に置かれる見通しだとハビブは言う。 また、南部でタリバン兵による処刑行為があったことを彼は認めたが、殺されたのは「泥棒」だけだと主張。民家の捜索も「武器を隠していたり、車両などの国有財産を私物化」していた家に限られると弁明した。 ジャーナリストでタリバンに詳しいアハメド・ラシッドはタリバンは既存の経済制度を維持する(そうしないと国の財産を使えない)だろうが、人権は無視するだろうと述べた。「彼らは民主主義を信じない。指導者の選び方も予測し難い」。不透明な点が多過ぎると言い、こう続けた。 「国際社会に受け入れられ、認知されるための努力は必死でするだろう。だが女性の権利についての話は単なるリップサービスだ。刑務所から解放された戦闘員や米軍グアンタナモ基地からの帰還組は、西洋に対して悪い思いしか持っていない。だから強硬路線に走るだろう。戦闘の主役だった若い世代は、当然のことながら報復もしたい。リベラリズムだのモダニズムだのに、擦り寄るとは思えない」 ロシアや中国、そしてタリバン発祥の地のパキスタンは、既に彼らの政権を承認する構えだ。しかし欧米諸国は認めないだろう。タリバンが過去の残虐行為やテロ支援を反省しない限り、彼らがいくら「解放者」を気取っても受け入れ難い。 タリバンは再び、国を統治する機会を手に入れた。20年待ったとはいえ、最後はいとも簡単だった。果たして彼らは、今度こそ本当に統治できるだろうか。外国にいる私たちは状況の推移を見守るしかない。その間もアフガニスタン国内では多くの人が息を潜めて、安心して外を歩ける日が来るのを待っている。 From Foreign Policy Magazine