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<福岡市の高島宗一郎市長は、なぜ福岡市での改革が「日本を変える」近道になると考えているのか。挑戦の核心と展望を聞く> ※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です。 史上最年少36歳で福岡市長に就任し、福岡市という現場で10年もの間、改革をリードしてきた高島宗一郎市長。福岡市の改革の実績をベースに日本を最速で変える方法を提示し、チャレンジャーたちの背中を押すのが新著『日本を最速で変える方法』(日経BP)です。 福岡市は、国に先駆けてハンコレスを実現するなど「データ連携」を進め、スタートアップ支援、感染症×少子高齢化時代を見据えた福岡式街づくりなど、新たな挑戦を続けています。そんな福岡市を率いる高島市長が、いま本書を執筆した理由とは何なのか。新しいビジネスを社会実装させ、日本を変えていくために何が必要なのかをお聞きしました。(インタビューは7月上旬に実施) 若い人が「希望」をもてる社会にしたい ── 『日本を最速で変える方法』の執筆動機は何でしたか。 7月23日からオリンピック・パラリンピックが始まります。選手のみなさんにはぜひ頑張ってほしいと思いますが、残念ながら今回のオリンピックは、常々いわれていた「コロナに打ち勝った証」にはできなかったと、多くの国民は感じているのではないでしょうか。 その原因を「総理のせい」「大臣のせい」と、個人に押しつけるだけでは、この経験は何も活きません。ボトルネックを見極めることこそが、オリンピックのレガシーになると考えています。 唐突にオリンピックの話をしましたが、これこそが、まさに執筆の動機につながる問題意識です。この1年半のコロナ期間中、国民はずっともやもやしてきました。けれど、そのもやもやの本質が見えないから、社会で起きていることを自分が理解できるようにしか理解していない。結果として、個人を批判して溜飲を下げて終わり。 これでは、いつになってもこの国は良くならないと気づきました。日本を希望のもてる国にするためにどうすべきか――。私自身が考えたことや実践してきたことを共有し、人々の行動が変わるきっかけになればと筆をとりました。 コロナ禍という有事にもかかわらず、給付金送付にしてもワクチン接種にしても、平時の延長でしか対応できず、スピードの遅さが浮き彫りになりました。なぜ日本は有事に直面しても変化しにくいのか? なぜ挑戦しないのか? ゼロリスクを求めるのか? そうした本質的な課題を突きつけられる日々でした。 特にもどかしさを感じているのは、若い人たちから希望がなくなっていることです。少子高齢化が進んだ結果、若者は、自分たちの意見を国のあり方に反映させていくという点で、構造的に弱者の立場に立たされています。 ===== 若者は、人生の大事な時期に、自粛を強いられて旅行もできず、見聞を広めることもできないのです。そんな危機的状況にもかかわらず、若者のかけがえのない時間が失われていることへの解決策が提示されていないばかりか、その議論すらされていない。 コロナ禍で明らかになった日本の構造的な問題に対する理解を深め、私たち一人一人がリテラシーを磨くことが、社会を変えていくうえではとても重要です。本書には、新しい挑戦をする人たちの後押しとなるよう、社会を変えるために知っておくべき日本の構造を示しました。 ある意味、コロナ禍で日本中が同じ苦しみを経験し、変化の必要性を痛感した今だからこそ、日本をアップデートする大きなチャンスです。この本を通じて、日本が、若い人たちにとって希望をもてる国に変わることにつながればと願っています。 日本を最速で変える方法 著者:高島宗一郎 出版社:日経BP flierで要約を読む 破壊なくして創造なし ── 新しいビジネスを社会に実装させ、ビジネスの力で日本を変えたいという方もいると思います。最速で日本を変えるために何が必要なのでしょうか。 新しいものを創造する際には、まずは既得権を壊すことが大事です。日本では、現状を変えたくないと考える既得権者たちが、新たなチャレンジによるリスクを煽り、ライバルの参入を阻んでいます。だから、プロレスラー橋本真也さんの言葉を借りると、「破壊なくして創造なし」なのです。 人を動かすには、こちらの熱意と覚悟が問われます。そのうえで、新しいビジネスを社会実装させるには、政治の力学を知らなければいけない。 これまでにない製品やサービスであれば、今ある制度を変えないと市場に参入できない場合もあります。そうしたときには、製品やサービスの魅力をアピールすることが「表」の営業活動だとしたら、選挙活動やロビー活動によって有力者を味方にし、ビジネス環境を整えていくことは「裏」の営業活動といえます。この両方の営業活動が求められるのです。 政治家は制度をつくる側なので、政治家を味方につけて、使っていく発想が必要となります。また、世界では「ロビイスト」というロビー活動のプロを雇うことが普通ですが、日本ではそのプロも少なく、ロビー活動を学ぶ機会もほぼありません。もっとロビー活動の大切さが理解されるべきでしょう。 ── 破壊するといっても、首長が既得権という壁に立ち向かうのはハードルが高いと思います。その壁を打ち破るために実践するとよいことはありますか。 戦いを挑むテーマを自分が勝てる範囲内におさめることです。本気で改革をするなら、それを断固として変えたくないと考える抵抗勢力と戦わないといけない。もし戦力が分散すると、目線が届かなくなり、弱い部分を突かれてしまう。だから自分自身の戦力を冷静に見極めないといけない。 ===== 戦う相手の動向はどうか、その課題解決にあたる人たちが時間的・能力的に戦いに臨める状況か、自分のポリティカルキャピタル(編集部注:政治家が有権者から得られる支持、意見を通すのに必要な影響力)はどうか。こういったことをもとに、一度に挑戦できる課題を決めて、優先順位をつけています。 また、私は政党に属していないので、制度改正のように議会の同意が必要な場面では、改革を成し遂げるために、同じ志を持った仲間や協力者をつくることが肝になってきます。 政令指定都市という地の利を生かし、挑戦のロールモデルをつくる ── 福岡市は全国に先駆けて行政のハンコレス化を完了させ、福岡都心部を感染症対応シティにつくりかえるなど、まさに挑戦・変革を体現しています。それを可能にしている要因は何でしょうか。 福岡市が、「都道府県とほぼ同等の権限」と「基礎自治体(市町村)としての現場」をあわせもつ「政令指定都市」であることは、大きなメリットでした。しかも福岡市は国家戦略特区でもあるため、国へ規制緩和も提案でき、エリア限定で色々試せるので、成功事例をつくりやすいのです。 高島宗一郎市長 flier提供 ── 直近の挑戦の事例を教えてください。 具体的な事例は多数ありますが、その1つは、福岡市のスタートアップであるウェルモと共同で行っている、AIを使った「介護予防ケアプラン作成支援システム」の構築です。 高齢者の状態、病歴、介護支援に関する情報などを一つのプラットフォームにまとめました。そして、過去の膨大なプランや各種データを学習させたAIを活用することで、エビデンス・ベースで精度の高いケアプランを効率的に作成できるようになります。これは日本初の取り組みです。 こうしたシステム構築を実現できた背景には、福岡市が160万人の人口を有しており、多様なデータを収集できること、先進技術を使った民間企業の社会実証を後押ししてきたことがあります。官民が連携したデータ活用のロールモデルをつくることが、国全体を最速で変え、世界の高齢者問題の解決策にもなっていくはずです。 まずは「やってみせる」 ── 高島市長は36歳のときに最年少市長となり、挑戦を続けていらっしゃいます。福岡から日本を変えていこうとしている理由は何でしょうか。 理由は2つあります。まず「福岡市から変えること」にこだわるのは、それが日本を変えるための合理的なアプローチだから。 例えば福岡市では、mobby rideと組んで、電動キックボードの実証実験・活用を進めてきました。新しいサービスを一斉に全国展開しようとすると、「事故が起こる可能性が高い」といった、リスクを不安視する声、またその不安を煽る既得権側の動きもあり、途端に進めにくくなってしまいます。 ですが、エリア限定で試して課題を解決し、成功事例をつくっていけば、全国各地に適用しやすくなるのです。人はゼロの状態だと実現するイメージが湧きづらく、行動を起こしにくい。だからまず「やってみせる」こと、そして成功事例をつくることが、変化への近道だと考えています。 ===== 2つめの理由は私の死生観によるものですね。生き死にを左右する経験をすると、命の有限性にふれて死生観が変わるものです。戦場で命が失われるのを目の当たりにするとか、大切な人が亡くなるといった経験です。私も学生時代に訪れた中東で銃を突きつけられ、死生観が変わりました。 永遠とは、生まれ変わり続けること。伊勢神宮が式年遷宮をくり返して、いつもみずみずしくあるように、「命のバトン」をつないでいくことだと思います。今回の人生は次の子どもたち、つまり次世代の自分たちのために社会をよくしていきたい。そんな思いが挑戦の原動力になっているように思います。 政治家を志すきっかけとなった「中東訪問」へと導いた一冊の本 ── 高島市長のそうした人生観に影響を与えた本、価値観を変えた本はありますか。 高校時代に読んだ、アントニオ猪木さんの著書『たったひとりの闘争』です。湾岸戦争の頃に参議院議員を務めていたアントニオ猪木さんが、イラクで人質となっていた日本人を救出したときの訪問記でした。プロレスへの関心から手にとった一冊でしたが、読み進めるにつれ、当時テレビで報道されている中東の姿と、本の内容が大きく異なることに気づきました。 また、善悪という単純な構図では語れない状況が見えてきたのです。この本との出合いを機に、中東問題について勉強し、大学入学後は「日本中東学生会議」というサークルで中東の学生たちと交流を深めるようになりました。 実際に中東を訪問して知ったのは、日本人がいかに現地の人たちから信頼されているかということ。そこから、誇るべき日本を発展させるべく、政治家として働きたいという志が生まれました。 同時に、真実を知るためには、メディアの情報をうのみにせず、自分の目で確かめることが大切だということも、この本から教わりました。プロレスへの興味から手にとった本でしたが、自分の人生を大きく変えた一冊となりました。 ── 今後のビジョンを教えてください。 若い世代が将来に希望をもてる国をつくることです。社会のアップデートが苦手な日本において、リスクをとってでも世の中を変えたいという若者たちを勇気づけることに力を注ぎたい。彼らが挑戦しやすい環境づくりも、私の役割だと自覚しています。 現在の日本は根深い問題を多く抱えていますが、よりよい社会になるためのチャンスがたくさん眠っているともいえます。そのチャンスを逃すことなく、自らの手で未来を創造したいと考えるチャレンジャーたちとともに、私自身も挑戦を続けていきたいと考えています。 高島宗一郎(たかしま そういちろう) 1974年生まれ。大学卒業後はアナウンサーとして朝の情報番組などを担当。2010年に退社後、36歳で福岡市長選挙に出馬し当選。2014年、2018年といずれも史上最多得票で再選し現在3期目。2014年3月、国家戦略特区(スタートアップ特区)を獲得、スタートアップビザをはじめとする規制緩和や制度改革を実現するなど、日本のスタートアップシーンを強力にけん引。福岡市を開業率連続日本一に導く。規制緩和で誘導する都市開発プロジェクトやコンテンツ産業振興などの積極的な経済政策で、政令指定都市で唯一、7年連続で税収過去最高を更新。熊本地震の際には積極的な支援活動とSNSによる情報発信などが多方面から評価され、博多駅前道路陥没事故では1週間での復旧が国内外から注目された。2017年日本の市長では初めて世界経済フォーラム(ダボス会議)へ招待される。 flier編集部 本の要約サービス「flier(フライヤー)」は、「書店に並ぶ本の数が多すぎて、何を読めば良いか分からない」「立ち読みをしたり、書評を読んだりしただけでは、どんな内容の本なのか十分につかめない」というビジネスパーソンの悩みに答え、ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。 通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されているほか、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。