2005年南米コロンビアのアンデス山脈で非常に奇妙な姿をしたカニの化石が発見されました。
それは約9500万年前白亜紀に生息していたと考えられる、非常に大きな目とオールのような脚を持った甲殻類で、2019年にイェール大学の研究チームにより新種として登録が行われました。
その生物は「Callichimaera perplexa(カリキマエラ・ペルプレクサ)」と名付けられています。
今回、米国イェール大学(Yale University)とハーバード大学(Harvard University)の古生物研究チームは、この奇妙な古代のカニの特徴の1つである大きな目を分析した新しい研究結果を報告しました。
それによると、カリキマエラの目は異常に高い光学特性を持っていたことがわかり、視覚に頼った捕食者だったと示されています。
研究の詳細は、科学誌『iScience』に2022年1月に掲載されています。
目次
- 奇妙なカニの化石
- 極端に巨大な目の意味
奇妙なカニの化石
2019年に登録された新種の古生物「Callichimaera perplexa(カリキマエラ・ペルプレクサ)」には奇妙な特徴がいろいろとあります。
それは、オールのような平べったい脚をもち、曲がった爪と大きな複眼、脚のような口腔部、長い体を持ち一般的に認識されるカニとはだいぶ異なった姿をしています。
名付けられた学名の「Callichimaera perplexa」には複雑で美しいキメラという意味があります。
(属名「Callichimaera」が美しいキメラを意味し、「美しい」とは化石の良好な保存状態、「キメラ」は複数の分類群をあわせたような奇妙な姿のことを指します。
種小名「perplexa」はラテン語で混乱を意味し、系統的な位置づけが難解なことを示す)
学名にも記録されているように、このカニは化石の状態が非常に良好でした。
そのため白亜紀の標本としては、通常保存されないような非常に繊細な目の組織が、分析可能なレベルで残っていたのです。
今回の研究の筆頭著者であるイェール大学のケルシー・ジェンキンス(Kelsey Jenkins)氏は、「このような優れた光学組織が含まれた、優れた保存状態は稀です」と語ります。
そこで彼女は、現存する15種のカニ1000匹と、さまざまな発生段階を含んだ今回の化石を分析をすることにしたのです。
この研究では、カニの目の大きさと成長速度の比較が行われました。
その結果、非常に興味深い古代のカニの生態がわかってきたのです。
極端に巨大な目の意味
分析の結果、カリキマエラの目の大きさは、体長の約16%に及んでいたことがわかりました。
これについて、ジェンキンス氏は次のように説明します。
「私の身長は約158cmですが、もし私の目をカリキマエラと同じ比率にして考えた場合、目の直径が23cmを少し超えるほどのサイズになります」
23cm以上の目を持つ人間を想像すれば、カリキマエラがいかに極端な大きさの目を持つ生き物だったかが理解できます。
これほど大きな目を持つ生き物は、間違いなく非常に高い視覚能力を持っていたはずです。
現存するカニの目のサイズは、体長に対して大きくても3%程度しかないため、カリキマエラの特徴はまったく対照的です。
また、調査の結果、カリキマエラの目の成長速度はどのカニよりも非常に速かったこともわかりました。
目の成長が非常に速いカニは、視覚に頼る傾向が強く、おそらく狩りにおいても目を使って捕食行動をしていたと考えられます。
逆に目の成長が遅いカニは、視覚にあまり頼ることがなく、現在のカニと同様に死肉を漁るスカベンジャーだったと考えられるのです。
そのためカリキマエラは、目を発達させた優れた捕食者だった可能性が高いようです。
ジェンキンス氏はもともとは爬虫類が専門の研究者でしたが、現在はカニについてもっと知りたいと話しています。
目は口ほどに物を言うといいますが、それは化石でも同様だったようです。
参考文献
A crab’s-eye view of the ancient world
https://news.yale.edu/2022/01/05/crabs-eye-view-ancient-world
元論文
The remarkable visual system of a Cretaceous crab
https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.103579