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ブドウの種にマウスの寿命を9%伸ばす「老化除去剤」が存在すると判明!
Credit:Canva

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ブドウの種に含まれる成分が、体から老いを切り取ってくれるようです。

中国科学院(CAS)で行われた研究によれば、ブドウの種に含まれる化学物質には、老化した細胞のみを破壊する老化除去効果があり、老いたマウスに注射すると余命が60%、総寿命が9%も伸び、運動能力も改善したとのこと。

体内の老化細胞のみを除去することで、相対的な若さが得られたようです。

「老化を逆転」させるのではなく「老化を除去」するという戦略をとることで、より合理的な長寿薬の開発につながると考えられます。

研究内容の詳細は12月6日に『Nature Metabolism』にて公開されています。

目次

  • ブドウの種にマウスの寿命を9%伸ばす「老化除去剤」が存在すると判明!
  • 老化を逆転するのではなく除去する

ブドウの種にマウスの寿命を9%伸ばす「老化除去剤」が存在すると判明!

ブドウの種にマウスの寿命を9%伸ばす「老化除去剤」が存在すると判明!
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

老化にともなうさまざまな障害は、老化した細胞が臓器で増えることによって起こります。

老化細胞が心臓で増えれば心臓病、すい臓で増えれば糖尿病、骨で増えれば骨粗しょう症が発生し、私たちの命を奪っていきます。

そのため老化細胞の出現を防止したり除去することが、臓器の機能と健康を守る上で重要となっています。

そこで今回、中国科学院の研究者たちは、さまざまな植物から抽出された化学物質の巨大な「ライブラリー(貯蔵庫とデータベースを合わせたもの)」を作成し、老化した細胞に対する効果を1種類ずつ調べていきました。

結果、ブドウの種に含まれるプロシアニジンC1(PPC1)と呼ばれる化学物質が、老化細胞だけを殺す「老化除去」効果を持つことを発見しました。

さっそく研究者たちは、生きている動物での効果を確かめるために、171匹の2歳のマウス(人間では70歳に相当)に対してPPC1を週に2回注射(0.75μg/ml)したました。

するとPPC1を投与された老マウスたちは余命を60%、総寿命を9%、伸びたことが判明。

また研究者たちがPPC1を注射された老マウスの体を調べたところ、通常の老マウスに比べて老化した細胞が少ないことが判明。

この結果は、PPC1の老化除去効果が、生きているマウスの体内でも発揮されたことを示します。

さらに若いマウスにPPC1を注射したところ、体内に存在していた老化細胞が取り除かれ、体力が回復していることも確認されました。

研究者たちは、老化細胞だけが取り除かれたことで、相対的な若返りが起こり、寿命の延長や体力の回復が起きたのだとのだと考えました。

これだけでも「老化除去薬」として非常に有望な結果と言えますが、研究者たちは満足しませんでした。

PPC1の老化細胞に対する破壊力を、がん細胞に向けることができれば、がん治療薬になる可能性があったからです。

老化細胞とがん細胞は本質的には別物ですが、既存のがんに対する化学療法のいくつかは、がん細胞の老化を加速する効果があることが知られていました。

そこで研究者たちは、がんになったマウスに化学療法を行って、がん細胞を老いた状態に誘導し、同時にPPC1を注射してみました。

すると、化学療法単独では腫瘍が44%しか縮小しなかったものの、PPC1を合わせて投与した場合は75%もの縮小がみられました。

この結果は、化学療法でがん細胞が老いたことで、老化細胞のかわりにがん細胞をPPC1の殺害対象にすることに成功したことを示します。

老化を逆転するのではなく除去する

老化を逆転するのではなく除去する
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

今回の研究により、ブドウの種に含まれるPPC1が、老化細胞を選択的に除去する「老化除去薬」としての機能を持つことが示されました。

また体内から老化細胞が除去されたことで、マウスの寿命延長と体力回復が起こることもしめされました。

「老化を逆転」することが不老長寿の究極の目的ですが「老化を除去」することも現実的な老化対策として重要になるでしょう。

またPPC1の老化細胞に対する破壊力は、がん治療にも応用できることが示されました。

化学療法でがん細胞を老化させることで、がん細胞をPPC1の殺害対象にすることが可能と判明したからです。

PPC1は若い細胞に対しては影響を与えないことも確認されているため、人間への応用が成功すれば、寿命を延ばし、体力を回復し、がん治療にも使える究極の健康薬になるでしょう。

(※なお老化除去薬として用いるには高濃度のPPC1が必要なため、ブドウの種を生で食べるだけでは効果はありません)

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参考文献

“WE’RE GOING AFTER A CELL TYPE LIKE ANTIBIOTICS GO AFTER BACTERIA.”
https://www.inverse.com/mind-body/grape-seeds-longevity

元論文

The flavonoid procyanidin C1 has senotherapeutic activity and increases lifespan in mice
https://www.nature.com/articles/s42255-021-00491-8