地球の生物はすべて、太陽・月による重力変動を受けながら進化してきました。
これは生物の活動リズムと関係する可能性があるということは、以前から指摘されていましたが、それはとても小さな力であるため科学的には軽視されがちでした。
今回、ブラジルのカンピーナス大学(UNICAMP)とイギリスのブリストル大学( University of Bristol)の二人の研究者は、重力潮汐力が生物の活動リズムを常に形成してきた知覚可能な力であることを、新たな研究から示しました。
この研究では、広範な文献のメタ分析を通じて、サンゴの繁殖力や、ひまわりの苗の成長、等脚類の遊泳パターンが太陽・月の重力と関連することを明らかにしています。
研究の詳細は、科学雑誌『Journal of Experimental Botany』に11月2日付で掲載されています。
目次
- 月と太陽が地球に与える影響
- 生命が示すリズム
月と太陽が地球に与える影響
今回の研究の話題に入る前に、まず太陽と月が地球に与えている重力の影響についておさらいしておきましょう。
太陽と月を合わせた重力の力は、地球自体の重力の100万分の1程度しかありません。
しかし、その影響は無視できるほど小さいわけではなく、こうした力は潮汐力と呼ばれていて、月や太陽が地球を引っ張ることで、地球をひずませ、特に海面の水位を大きく変化させます。
潮の満ち引きは1日に2回起こりますが、これは月と地球の位置関係で発生しています。
また、太陽も月ほどではないにせよ、地球に重力の影響を与えています。
太陽の影響は月の半分程度だと言われていますが、月と太陽が直線状に並んだ場合、海水を引っ張る力も増すため、このときを「大潮」と呼びます。
また太陽が干潮差を弱めるように働く場合もあり、これは「小潮」と呼ばれます。
これらの話について、下記の記事でも詳しく解説しているので、興味のある人はそちらを参照してください。
海面を大きく変動させていることから、こうした月や太陽の重力作用は、必ずしも無視できるほど小さいものではないことがわかります。
実際、月と太陽の潮汐力は、地球の地殻にも影響していて、欧州原子核研究機構(CERN)の周囲27kmもある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、この重力変動の影響で1mmずつ垂直にずれてしまうため、実験者はそれに合わせて計算を修正する必要があるのです。
この1日2回の周期的な潮汐力の振動は、地球に生命が誕生してからずっと、変わらずに続いています。
地球生命は、こうした背景の中で進化してきたため、この影響が生命の活動パターンにも何らかの影響を与えている可能性は高いと考えられるのです。
しかし、多くの科学研究で、こうした事実は割と軽視されがちです。
例えば、照明などを調節し、外界の影響を遮断した状態で植物の成長を調査する際、月や太陽による重力的な影響のリズムを考慮していない場合があります。
もし、生命が潮汐力のリズムに影響を受けているとすれば、こうした実験は必ずしもすべての外界の影響を取り除いているとは言えなくなってしまいます。
そこで今回の研究者は、広範な文献のレビューと、重力の因果関係が十分に検討されていない3件の研究データをメタ分析(meta-analysis)することで、その影響を示そうとしたのです。
生命が示すリズム
生命の活動には、たいていリズムパターンがあることが知られています。
それは昼夜の明暗周期に関連した概日リズムも含まれます。
しかし、概日リズムを作り出す光の明暗の影響を切り離した場合でも、生物のリズムが維持されることがあります。
それは、目に見える要因以外に、何らかの生物のリズムを生み出す影響が存在していることを意味しています。
今回の研究では、甲殻類などの沿岸生物を自然の生息地から遠ざけた場合でも、潮汐サイクルに従った行動パターンが維持されるという問題を検討しました。
「これらの生物は、水環境が安定するよう制御された実験室に移動させても、太陰・太陽力学(月と太陽が生み出す潮汐力)に由来する約12.4時間の周期で、潮の干満に合わせた行動変化を維持させます。
このパターンは数日間維持され、生物が採集された場所での潮汐のタイミングと一致するのです」
研究者の1人、ブラジルのカンピーナス大学のクリスティアーノ・デ・メロ・ギャレップ( Cristiano de Mello Gallep)教授は、そのように述べています。
ギャレップ教授が、こうした影響について注目したきっかけは、自身の行った種子の発芽実験でした。
その実験では、種子の発芽に伴う自発光が観察されていましたが、そのリズムが実験ごとに異なっていました。
ギャレップ教授がこの原因を求めて、さまざまな文献に当たったところ、重力潮汐との相関を指摘する研究を発見したのです。
その後ぎゃレップ教授はさまざまな種子で試験を行い、チェコ・プラハやオランダのライデン、日本の浜松の共同研究者からも同様の現象を確認したという結果を受けました。
それにより、月や太陽が及ぼす重力サイクルが、生物に影響することが確認されたのです。
この影響は、甲殻類や植物の種子のような単純な生物だけに影響しているわけではありません。
暗闇に置かれた人間にも、月の周期と調和した24.4~24.8時間の周期的な変動が現れる傾向があるといいます。
それは、睡眠と覚醒の交換、食事時間、その他代謝機能に条件づけられているようです。
こうした影響は、洞窟の中で長く過ごした人間にも見られます。
生命のリズムは、昼と夜という目に見える影響だけでなく、海面などの変化でしか見ることのできない月や太陽のかすかな重力にも反応しているようです。
それは太陽系の地球で生まれ育ってきた生命であることの証なのかもしれません。
参考文献
Gravitational action of sun and moon influences behavior of animals and plants, study shows
https://phys.org/news/2022-01-gravitational-action-sun-moon-behavior.html
元論文
Are cyclic plant and animal behaviours driven by gravimetric mechanical forces?
https://academic.oup.com/jxb/advance-article/doi/10.1093/jxb/erab462/6417250